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ものぐさ記念対局自戦記:第2回

nyankomusume
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考えすぎて脳みそがウニになってしまうほどの壮絶な駆け引きを経てスタートしたものぐさ記念対局。その真実戎棋夷説さんのブログ12/09/25の記事)にて既に明かされ詳細な解説付の自戦記が公開されました。はっきり言ってにゃんこむすめ一人が得をしたような気がするくらい素晴らしい内容で、中級者以下の方にはとても参考になる内容だと思いますのでぜひご一読を。

まぁそれはそれとして、こちらはこちらでビギナー向けの自戦記連載をブログ主が飽きるまでは続けたいと思います。一局のチェスを対局者のそれぞれがどういう視点で捉えていたのかということを明らかにすることは、もしかするとそれなりの層に需要のある試みかもしれません。一言だけ先に言っておきますと、にゃんこむすめはロクなことを考えていませんでしたが。

ちなみに第1回自戦記公開後、ものぐさ将棋観戦ブログ集成1500DLを突破したそうです。皆様のご愛顧に感謝いたします。ぜひ2度でも3度でもダウンロードしてください。日曜日に二度寝をむさぼるヒマがあったら2度目のダウンロードをするんだ!さぁさぁさぁ。

さて。
戎棋夷説さんが1...e6を選択したことでスタートからの乱戦はほぼなくなり、ここからは言わば序盤の駒組に入ります。

実を言うとスコッチ・オープニングの準備はしたものの、そもそも1.e4の経験が少ないにゃんこむすめは対フレンチ・ディフェンスの指し方が全くわかっていません。ということで、以前こちらの記事に書いたような「いわゆるひとつのセオリー」と考えられている指針に従ってこの後の数手を指すことになります。

あとこれ(チェスの第3歩 中級者へのステップ(1) とか、これ(一番学べる名局集)とかいった素晴らしい本が出版されいますので、読むなり並べるなりしていればそれなりに感覚が掴めてくるので、実戦では意外に何とかなるものなんですね。

勿論、さらに上を目指すのならそれなりの修行が必要かもしれません。例えばハリーポッターと賢者の石の巨大チェスシーン(のハーマイオニー)を穴が開くほど凝視するとか。

 

 

 



ともあれ。
にゃんこむすめのスコッチ・オープニングの狙いを外した戎棋夷説さんは意気揚々です。

ふはははははははは!『ハリー・ポッターと賢者の石』を見てハーマイオニーを愛でながらチェスを始めたようなどこの馬の骨ともわからん奴にこの私が倒せるものか。ふはははははははは!ふはははははははは!(何故か闇の帝王みたいなノリで)

「くっ!にゃんこむすめは馬の骨じゃないもん!猫だもん!

水面下(脳内)での舌戦も熱を帯びてきました。こうなったらもう、チェスよりもむしろ舌戦で勝ちたいくらいの気持ちになってきます。

7手目の図面。ここが最初のポイント。というかこのパターンはものすごくよくある局面でして、いつもどう指すか悩まされるところでもあります。悩まない人はよほど強いかよほど弱いかのどっちかです。中級者はかなり悩んで歯ぎしりして歯が痛くなってくるほどなのですよ。あ、そろそろ歯医者行かなくちゃ


どういうことかと言いますと

・白はNf3とナイトを跳ねたい(ピースを展開する手でありかつキャスリングの道が出来るから)
・ただしNf3にはBg4でピン(ナイトが動くとクイーンが取られる状態に)される。
・ピンを防ぐなら先にh3と端のポーンを突けばよいが、ただしこの手は手損になって展開で相手に遅れをとる原因になることが多い(当社比)。

さて、どうすんべ?
尊敬する戎棋夷説師匠が相手とは言え、このままただ淡々と指し進めるだけでいいのか?アマチュアと言えどチェス棋士はみな戦士なのです。へぃぶっ倒してやんよ!的な気合いも必要なのではないかと、そう思いませんか?思いませんかそうですか。

そう言えば長州小力という芸人さんに聞いたのですが、その昔小力そっくりのプロレスラーが先輩レスラーに向かってこう喧嘩を売ったことがあるそうです。
「俺はお前の噛ませ犬じゃないぞ!」と。
プロレスと同じようにチェスもまた8×8の四角いジャングルの上で繰り広げられる戦い。

にゃんこむすめもここはひとつ下剋上を狙って果敢に先輩棋士に挑むべきだ。気合いだ気合いだー。というわけで、にゃんこむすめは勇気を振り絞り、そしてチャット欄にカーソルの照準を合わせ、天空を駆けるペガサスの如く華麗に、というのは真っ赤な嘘で、町をお散歩していたらお魚屋さんを見つけて鼻息が荒くなり全身が総毛立ったノラ猫のような勢いでキーボードを叩いたのでした。
「おい戎棋夷説さん)!にゃんこむすめはお前の招き猫じゃないぞ!

そう言い放ちながら 7.Nf3と指したのが次の図。
戎棋夷説さんの自戦解説(12/09/25)によれば、師匠はこの時かなりカチンときたそうです。
あれ?変ですね。さっきの下剋上宣言、送信ボタンは押さなかったのでチャット欄には表示されなかったはずなのに。気合いが伝わったのでしょうか?それとも送信ボタンは押さなかったけど大声で叫びはしたので聴こえてしまったんでしょうか。心意気って大事ですね。

ところで戎棋夷説さんによるとここは「Qf3(図で白ナイトがいるところに代わりにクイーンを動かすの)が普通」なのだそうですが、いやー、にゃんこむすめは序盤からクイーンを3段目以上に動かす手が大っ嫌いなんですよね。

だっていつもミニスカ履いてるうちの女王様が、そんな高い所に登ったらパンツが見えちゃうじゃないですか。経験上、自分より強い人相手に早目にクイーンを動かすとロクなことがありません。こういう手は将棋で言えば序盤早々の筋違い角みたいなもの(個人の感想です)で、後で負担になることの方が多い(当社比)ような気がするのです。
目安としてchess.comでのレイティング1600以上の人にはやらないことにしています。って、おいおい、じゃぁ1600未満の人にはクイーンのパンツ見られてもいいのか?とツッコまれそうですが、いいんです。どうせ見せパンだし

勿論、オープニングの変化によっては早々にクイーンが3段目に駆けあがる手が定跡手順となっているものもあります。例えば前回のテーマだったスコッチ・オープニングの一変化にも黒番が早々にクイーンを3段目に上がる手がありますし、定跡なんか知ったことかの乱戦模様になればクイーンはその戦力の大きさを頼られて大暴れを始めますし、そうなるとじっくりした駒組みなんてやってる余裕は微塵もなくなります。
駒組みするより何よりもまず、目の前の敵を追い払い駆逐せねばなりません。パンツ見られる心配をしている場合ではないのです。


しかしながらこの局面でにゃんこむすめがまさか女王様のパンツの心配をしていたとはさすがの戎棋夷説さんも想像もしていなかったことでしょう。ふっ師匠も読みが甘いぜ。……どんなに強い人でも読み抜けはあるということなんですね。

ともあれ戎棋夷説さんは局面をリードしようとして、対するにゃんこむすめは女王のパンツの心配をして……この見解の相違が、換言すると二人のチェスに対するイデオロギーの相克が局面のバランスに変化を生じさせ、結果としてにゃんこむすめがほんのちょっとだけの優勢を確保することになりました。

ということでさらに指し手は進んで次の図。
実はこの局面、にゃんこむすめが本局で唯一と言っていいほど真面目に(つまりハーマイオニーの素敵な笑顔や女王様のパンツのことではなくて純粋にチェスの指し手を)考えに考えた局面でした。

何を考えたかと言うと。
ここでQd2(クイーンを1つ上がる)と指せば戎棋夷説さんはビショップで白のナイトを取るだろうか?取ったらどうなるんだろう?と。


黒がビショップでナイトを取り、それを白がポーンで取り返せば、白の陣形は当然こうなります。





この白のポーンの形を「ダブルポーン」といい一般にあまりよくない形とされています。ていうか既に左側にも一箇所ダブルポーンの形が出来ちゃってますけど。

現在ロンドンで開催されているFIDE Grand Prixという大会でもこういう形(Wポーンどころからトリプルポーン)になり、黒番はポーン2つも得しているのにドローというゲームがありました。ポーンが縦に重なると下のポーンは全く使えなくなるのでいないのと同じになっちゃうんですね。


なので戎棋夷説さんがにゃんこむすめに2箇所のWポーンの形を強いるというのは理に適っているわけです。一方で白番には「2つのビショップ」黒には「2つのナイト」という状況が発生します。

一般に「局面がオープン(開いた筋が多くて駒が動かしやすいと思ってください)になればビショップが強い」とか2ビショップは(上手に使えば)メジャーピース(ルークとかクイーンとか)に勝る(こともある)と言われているぐらいでして、普通は自分だけが2ビショップを確保して終盤戦に入るととても戦いやすいのです。そしてにゃんこむすめはビショップが大好きです。
どのくらい好きかというと、とめ手羽外はカリっと中はふんわりジューシーな手羽先と同じくらい大好きです。あま手羽も好きです。

それにビショップと打とうとしてびしょまで入力したら美少女と変換されてしまうところもポイントが高い。2ビショップ2美少女になるし黒マスビショップ黒マス美少女白マスビショップ白マス美少女バッドビショップバッド美少女です(何だこれヤンキー美少女なのか?)。ビショップのマヌーバリング(自陣で駒を動かして配置を変えて行くこと)は美少女のマヌーバリングになりますね。美少女のマヌーバリングって何だろう?


……等と。
にゃんこむすめが脳内でビショップを美少女変換していると。

戎棋夷説さんは美少女なんかに目もくれず勇躍ナイト-ビショップ交換に踏み切って、そして迎えたのがこの図。

白番には2箇所のWポーン。しかしこのポーン、特にC3のWポーンはいずれ解消できそうだから、二人の美少女が味方をしてくれている(訳:2ビショップを確保したまま終盤まで行けそうな気がする)白がここでは優勢、というのがにゃんこむすめの判断でした。

結果的にこの判断は甘かったかもしれません。美少女に目が眩んだのだろうと悪口を言われても反論の余地はございません。
後で振り返ってみれば2ビショップは2美少女ではなく2美幼女ぐらいの強さでした

この局面、まだ少しだけ白が優勢な気はするけれど、思ったほどの差ではなかったのです。55-45 ぐらいの形勢かと思ったら実際は 53-47ぐらいだった、みたいな感じでしょうか。ていうか、チェスの場合、開始した時点で白が52-48 ぐらいで有利な気もするので、さんざん(妄想を)頑張ったのに、その割にはほとんど現状維持だったのかもしれません。ぐぬぬ……。

ということで。

思ったほど成果を上げられなかった序盤を経て、それでも白番の利は何とか保ったまま、いよいよ本格的な戦いがこれから始まるのですが今回はここまで……。

次回「ものぐさ記念対局自戦記・第3回:今回登場するはずだったけど出演延期になったデンマークのつむじ風がついに降臨するの巻」は、また気が向いたら書きますね。

 

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